第234章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(21)時が繋がるルージュ編
待合室に置かれた、
冷たいベンチソファー。
私はそこにぽつんと座り、茶色のローファーの爪先をじっと見つめたり、時には顔を上げてお会計を済ます外来の人を何気なく見たり、忙しく動き回る看護婦さんに視線を追ったりして、家康の診察が終わるのを待つ。
文化祭と今回の事件の報告で多忙な織田先生の代わりに、付き添いに来てくれたのは明智先生。病院まで車で送ってくれて、おじさんと大事な話をするから診察室前じゃなくここで待つように私は言われた。午後からは予約制になっている為、あまり待合室には人がいなくて、どちらかと言えば静かなほう。
(夏の大会の時もこうやって、待ってたっけ……)
あの時は確か……
ーー何で、頬っぺたなわけ?
大会のご褒美にキスして。
ーー……ヒント……欲しい。
家康の好きな子のヒントを貰った。
夏休み中ずっと、
首筋に付いてた赤いシルシ。
(今は……)
私はそっと胸に手を当てた時……
「待たせたね。ひまりちゃん」
「おじさん……その格好……」
立ち上がりながら、尋ねる。
上体をまっすぐにして昂然と近づいてくるおじさんは、見慣れた白衣姿でも、普段休日に見る格好でも無くて、シックで繊細なスーツ姿。
「今から、相手側のご両親と話をしてくるからね。ここからは、大人同士の話し合いだ。……夜に、家康と一緒に君の家にも伺うよ」
「え……私の?……そ、そんな私はどこも怪我なんか!……それより家康の容態はっ!?もしかして、入院とかですかっ!?」
家康の姿が見えないことで嫌な予感がして、つい病院なのも忘れて取り乱す。詰め寄る私におじさんは、落ち着いた声音で、背中と腹部の打撲は暫く長引くこと。後の傷は、軽症だから数日には治ると説明してくれた。