第202章 天邪鬼の愛〜聴色〜(6)
騒ついた教室。
お弁当を食べ終わり、織田先生に渡されたコピー用紙を机に広げる。
(今頃、ゆっちゃんと政宗。良い雰囲気かな?)
そんな事を考えながら、すっかり手を止めていると……
「スー……スー……」
隣から聞こえた、規則正しい寝息。
私は顔を横向けて、
(ふふっ。……可愛い〜)
机の上に突っ伏している、無防備な家康の寝顔をじっーと、見る。
安らかであどけない寝顔。
長い睫毛が揺れて、
透き通るような白い肌。
(女の子みたい)
私は柔らかそうなほっぺに、つい人差し指が伸びて、触れる寸前で止める。
キス校内禁止令。
まだ、破っていない。
メールで、一緒にって言われたから……
(これなら、良いかな?)
首をキョロキョロ動かして、
誰も見ていないかを確認してから……
自分の人差し指に、唇を軽くあてて……
チョンッ。
家康の頬っぺたに、触れた。
ピクッ。
(あれ?今……)
「何、やってんだ?」
「へ!?」
突然、近くから聞こえた声と、机に落ちる影。くるっと反対方向に顔を向けると、政宗とゆっちゃんが立っていて……
(もしかして!み、見られちゃった!?)
慌てて人差し指を引っ込めて、膝の上に戻すと、政宗は「見てた」って、言うように笑ってて……助けを求めるように隣に立つゆっちゃんに、視線を送る。すると、目が合った瞬間、静かに後ろを向いて……
腰に手をあてて、
こっそり見せてくれたピースサイン。
後ろ向きは、恋の発展を知らせる、私達の秘密の暗号。
「うぅ///その顔、やめてよ〜〜」
「俺は誰かさんに、笑ってんだ」
「え???」
私じゃないの?なら、誰に?
ひまりが、
首を傾げる後ろで……
(……バレてるし)
あえて、信長に与えらた罰を放課後に、持ち越そうと狸寝入りをしていた家康。キス禁止令を解く、ひまりとの時間を取る為だった。
微かに頬に残る、幸せの余韻。
(……やばい。ニヤケそう)
反対に顔を向き直して、
こっそり口元を緩めた。