第190章 〜おまけエピソード(1)〜
襖をゆっくり開けて、部屋からこっそり抜け出す。時間にしたらまだ城下町にも、灯りが付いている時間帯。
羽織をかき合わせ……
(誰もいないかな?)
柱から顔をひょっこり出す。辺りを見るように首を伸ばして、キョロキョロ。
門番は一人。
私は草履を脱いで忍び足で近づき、足元の石を拾うと、遠くに向かって投げた。
「ん、何だ??」
門番さんは音に反応。
不審そうな声を出して、門から離れていく……
ジャリジャリ……
その足音に自分の足音を紛らわせ、素早く門から出ると、外塀に背中を引っ付けてほーっ…と、安堵の息を吐く。
(ごめんなさい。すぐに戻ります)
ぺこっと頭を見えない所で下げ、石碑に向かって歩き出す。
走るのは絶対、禁止!
と、耳にタコができそうなぐらい、家康からは言われていた。
まだ、小さいお腹。歩き始める前に、一度そっと手を添え、冷えたりしないように羽織をしっかり合わせる。
一歩一歩、慎重に足を運び……
石碑の前まで何事もなく、辿り着いた。
月明かりのない真っ暗な野原。
そんなに、長居は出来ない。
抜け出したのがバレて、大騒ぎになる前に戻らないと。そう思い、私はクルクルと紙を丸め、足元に咲いていた花を一輪摘む。
そして丸めた紙に巻き付けた。
まるで、忍者の巻物。一人でクスクス笑い、咄嗟に頭に浮かんだのは、佐助くん。
「私もちょっと、忍者気分?」
一人で喋りながら、
石碑の足元にそれを置く。
「神様、届けてくれないかな?」
全部の時の私に。
過去も、今も……そして…
家康がきっと、
築いてくれる平和な世に。
私へ
『時を越える力が現れても、決して愛する人を、自分を見失わないで』
神様は見えない……
新月の月みたいに。
でも、姿は見えなくても……
きっと、近くにいる。
だから、辛い試練も幸せも
同じぐらい私達に与え、与えてくれる。
今は、そんな気がした。