第36章 月見ず月(8)
「う〜ん…。そろそろ、佐助君が様子見に来てくれる頃かな?」
「……はい。正解です」
ん?幻聴??
聞こえないはずの声が後ろからして、
まさかね。と半信半疑で振り返った。
「幻聴だけじゃなくて、本人まで……へ!?……わぁっ!!」
「……にんにん」
無表情で、忍者のポーズをする佐助が立っていた。
「何で部屋に!どうやって!?」
「細かいことは気にしないのが、一番だ。それより先月、甘酸っぱい体験はどうだった?」
「え?あ!……うん、そ、の///」
真っ先に家康とのキスを思い出し、ポッキーの甘酸っぱい味が蘇り……
ちょっとね?とはにかみながら赤くなる頬を押さえ、しどろもどろに答える。
「色々合って、ちょっと悩んだりしたかな?」
「いい傾向じゃないか。姫は数々の試練を乗り越え、争いの絶えない戦国を生き抜いた」
「あれ?その話、どっかで聞いた気が……」
確か、昔誰かに……。
思い出せそうで、思い出せない。
頭に何かが引っ掛かったように、モヤモヤする。
「石碑の本来の言い伝えだ。戦国武将と戦国姫はあの場所で永遠の愛を……約束を交わし、誓いを立てた」
佐助は時が流れ、言い伝えがジンクスに変わったのでは?と言う。
「でも、その言い伝えと手紙と何か関係があるの?」
「それは、君がキュンキュンしたり、時には悩んでハラハラして……色々な体験をする内に辿り着くはず!」
さっきまでの冷静さは何処に消え、佐助はニコニコとしながら一冊の本を取り出す。
「五月と言えば、五月病!つまり恋の病、恋煩い……誰かを想い悩む」
和歌集と書かれた本を胸に抱き、ウットリした表情を浮かべた佐助君。
そして眼鏡をクイッと持ち上げ、
「ぜひ、この和歌集を詠んで君にピッタリの和歌を見つけるんだ!」
検討を祈る!とお決まりの台詞を言い残し、私が机に置かれた本をパラパラ捲っている間に、佐助は居なくなっていた。