第8章 11月
「ごめんなさい。何か忘れてる。教えてくれませんか?」
耳元で和也君の声がする。
記念日は、二人が覚えていないと意味がないです。
だから私は、何もなかったことにしないといけない。
「すみません。忘れました」
「なんで・・・?」
「意味がないから」
「は?」
こんなの嫌だ。
私バカだ。
和也君の大切な休みの時間を潰してしまって。
「もう、この話は止めましょう。ほら、ご飯ご飯」
走ってパスタを温めて、サラダを冷蔵庫から出して和也君の目の前に並べて・・・
「私、明日朝早いんで・・・おやすみなさい」
「・・・」
目は合っていたけど、和也君は仁王立ちで
目を丸く見開いていた。
身勝手な私は、部屋に駆け込むなり、
初めて自分の部屋のベッドで一人で
横になった。
いつも和也君の香りのする布団で二人。
今日はそれができそうにありません。
こんなはずじゃなかったのに・・・
ただ、覚えていてほしかった。
遠くで、お皿を洗う音がする。
とっても遠くに感じます。