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アイナナ夢

第2章 Rey


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こんな私がアイドルを目指すことになるだなんて、昔の私じゃ考えられなかった。
人前で歌うだなんて…私にはとてもじゃないけど出来ない。


だって…私の声は………



『〜、〜♪』

誰もいない早朝の公園で、私は歌っていた。
この時間帯なら誰も通らないし、私の声を聞かれる事もなかった。
歌うことは嫌いじゃない。嫌いなのは自分の声と…容姿だ。

「素敵な声だね」
『!?』

スーツを着た男性が私を見ながら拍手をしている。
早朝だからと言って油断した。
夢中になって目の前に人がいることに気づかないなんて。
もう…ここでは歌えない……そう思った私は、男性に背を向け歩き出す。

「ちょっと待ってくれないかな」

そう男が言うと、私は背を向けたまま立ち止まる。
どうせ私を笑うんだ。そう思った。

「君の歌声は素晴らしいよ」
『えっ?』

思わず私は振り返ってしまった。
そんなこと、一度だって言われたことがなかった。

「実はね、僕はこの辺りで朝しか歌わない子がいるって噂で聞いて来たんだよ」
『噂…そうですよね…こんな酷い声…』

絶対に聞かれないなんて保証なんてないのに。
でもここ以外で歌える場所なんてなかった。
就活で失敗した私にカラオケに行くなんて発想なんてない。

「君は自分を過小評価しすぎじゃないかな」
『…?一体貴方なんなんですか』
「自己紹介がまだだったね、僕はこう言う者だよ」

私に差し出したのは名刺だった。
その文字列を見て私は……

『小鳥遊…プロダクション…?代表取締役…???』

つまり…社長…?
こんなニコニコした人が?

「小さい芸能事務所だけどね」
『…そのシャチョウさんが何の用です?』
「君が大したことない子なら声をかけずに帰ろうと思っていたんだ」
『と言うと…?』
「君をアイドルにスカウトすることに決めた」

スカウト?
この私が?
どうして?
こんなこと有り得ない。

『詐欺なら他所でやってください』
「詐欺だなんて酷いな…これでも僕は人を見る目がある」

どうも胡散臭く見えてしまう。
今の私に必要なのはアイドルじゃなくて仕事。

『私は就活で忙しいんです。帰ってくれませんか』
「就活をしてる君がこんな場所で歌を?」
『うっ』

言い返したいのに言い返せなかった。
なんだかんだで私は歌が好きで、歌いたいんだ。

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