第2章 始まりの場所
「転生…」
波風一つ立たない水に顔を向ける。
最後に入っていた『器』の私が映っている。
私を背に乗せてくれている亀がチラリと此方を見て目が合う。何も言わずにニッコリ笑い返してくれた。
『その『器』は、人間界にはもうございません。なので『 』様が転生される場合は、また別の『器』に入っていただきます』
器は選べませんが。と付け加えられる。
幻想的な話に、思わず感嘆のため息が漏れた。
慌てて口を押える私に、女性は優しく微笑んだ。
『ここに来る皆さん、同じ反応されてました。そして、転生される方は全員転生していきました。――消滅という選択肢はございません。与えられた選択肢しか、選べないのです』
与えられた選択肢しか…
「転生される方は…という事は、転生以外の選択肢も…あるんですか?」
ふと沸いた疑問。
女性はそれに『はい』と、嬉しそうに答えた。
『もう一つ、特別な選択肢がございます。それはその選択肢を選べる魂にしか言えません』
なので、あなたに言います。
女性の白い手が、手の平を上にして私を指した。
『何度輪廻転生を繰り返しても、透き通る程の清らかさを持ち続けた魂には、『天使』として未来永劫の時間を天界で過ごす、という選択肢が与えられます』
あなにも、その権利がございます。
「……わたし…に、も…?」
女性と足元の亀を交互に見た。
女性は はい と微笑んで頷いた。
亀は目を瞑りながら、穏やかな表情で水に浮かんでいた。
「清らかな魂なんて…」
そんな事、と否定する私に女性はまた静かに口を開いた。
『では…あなたの魂の本質を、その目で見てみましょう』
そう言って、女性は両手を私の体にかざした。
その瞬間、私の体が白く光り始めた。
「わっ…」
光はどんどん大きくなって、遥か頭上、青空まで白く染めあげた。
『前世、その前世、前々世と。あなたが一つ一つ、それぞれの人生で積み重ねてきたモノが、魂をここまで清らかにしたのです』
「モノ…」
『簡単に言うなら、業です』
『あなたがどう積み重ねてきたのか…それを具体的に教える事は出来ません。ですが、確かにあなたは輪廻転生を繰り返してゆく中で、幾つもの魂を救い、正しい道へ導いてゆきました』