第10章 涙と笑顔
「・・・・・・ぅお!!な、なんだ!!」
ロッカーと壁の小さな隙間に、人影らしきものがあった。別に幽霊とかが怖いわけじゃないが、誰もいないと思っていた、しかも人が入れないような隙間に人影を確認すれば、誰でも驚くと思う。
「・・・・・・」
「・・・な・・・お前、ヒカリか?」
隙間に入っていたのはヒカリだった。というか、ここにいる奴らの中で、こんな所に入れるぐらい小さいのはヒカリぐらいしかいないだろう。
ヒカリは膝を抱えてうずくまっていた。顔は伏せられているから、どんな表情をしているかはわからない。
「・・・・・・」
「・・・お前なあ、これが逆だったら大問題だぞ」
「・・・・・・」
・・・男の更衣室に女がいても問題あるか。いや、そんなことよりも今はこいつだ。いつもピーピーうるさいこいつが、今は一言も話そうとしない。
「ヒカリ?」
「・・・・・・」
返事がない。仕方がないので少し前までの呼び名を使うことにした。
「おい、返事しろ、いちご」
「・・・・・・っく・・・・・・っ・・・」
やっとヒカリが顔を上げた。だが、その瞳からはボロボロと大粒の涙がこぼれていた。
「お、おい、ばか、泣くな。わ、悪かったから・・・」
「・・・っく・・・違う・・・ち、違うから・・・もう、ほっといてください・・・っく・・・」
やばい、ついに泣かしちまったかと焦ったが違った。・・・冷静に考えればそうだ。こいつはここでずっと泣いてたんだ。それなのに、ヒカリの涙を見て、なぜか激しく動揺してしまった。
「・・・いや、ほっとけねえだろ。どうした?何があった?」
俺はヒカリの前にしゃがむとヒカリの頭にそっと手を載せた。
「わ、わ、たし・・・ぅ・・・ひっ・・・っ・・・」
「・・・あー・・・いい。無理に話そうとすんな・・・とりあえず、全部出しちまえ。な?」
「ん・・・ぅぅ・・・っく・・・ひっく・・・」
ヒカリは一生懸命話そうとしているが、色々とこみ上げてきてうまく言葉にならないようだった。こんな時は無理にしゃべらせないほうがいい。ポンポンと頭を軽くたたいてやると、ヒカリは肩を震わせながら泣きじゃくり始めた。