第6章 甘い香り
あれから1時間ほどがたって映画が終わった。少しずつ周りが明るくなってきた・・・と思った瞬間に、誰よりも早くいちごがバッと立ち上がった。
いや、立つのはえーよ。俺と一緒に座ってんのがそんなに嫌なのかよ・・・と少し呆れながらも俺も席から立ち上がった。
「・・・あ、あの!これ・・・ありがとうございました。寒かったから助かりました、とっても」
すぐ江のところにでも逃げちまうかと思ったが、いちごは俺を見上げながら礼を言ってきた。
「おう・・・・・・」
俺は返事をしながら、自分の学ランを羽織ったいちごをまじまじと見る。ぶっかぶかだな。学ランの裾が膝にまで届いちまいそうだ。
・・・ホントちいせえなこ「『ホントちいせなこいつ』、とか思ってませんよね」
俺の思考といちごの言葉が被った。
「すげえなお前、エスパーか」
「思ってたんですか?!!」
俺が思わず驚いて見せると、案の定いちごは頬を染めて怒りだした。
「ははっ、わりぃ。まあそう怒んな」
「もう・・・・・・あ、えっと、これ・・・本当にありがとうございました」
いちごが脱いでよこしてきた学ランを受け取る。
「おう」
「・・・そ」
・・・そ?俺を見上げるいちごの頬がピンク色から徐々に赤へと染まっていく。
「・・・」
「・・・宗介さん」
「・・・お「あー!ご、江先輩、凛さん!!映画、良かったですね!!あはは!」
俺が何か言う前に、いちごはわざとらしく声を上げると凛と江の方へ行ってしまった。
・・・人の名前呼ぶだけで、どんだけ顔赤くしてんだよ。
その後ろ姿を見ながら少し笑うと、俺は再び学ランに袖を通した。
その学ランからもさっきと同じようにまるで本当のいちごのような甘い香りがした。