第6章 甘い香り
映画が始まって30分ほどが過ぎた。あまり興味がないと思っていたが、じっくり見るとなかなか面白かった。いちごはと言えば、俺が飲み物を取るのに前に身を乗り出したり、ほんの少し身体を動かしたりしただけで『近い!』などと文句を言っていた。こういう席なんだからしょうがねえだろと何度思っただろう。
・・・そういえばさっきから静かだな、こいつ。そう気付いて、俺はいちごの様子をこっそりうかがってみた。
「・・・っ・・・」
肩が小さく震えていた。そして、しきりに自分の手で腕をさすったりしていた。
「・・・寒いのか?お前」
「へ?あ・・・少し・・・でも平気ですから・・・・・・っ・・・」
そう言った先からいちごはぶるっと身体を震わせた。エアコンの風がちょうど当たる席だし、薄着のこいつにはかなり寒いのかもしれない。
・・・てか、何強がってんだ、こいつ。
「・・・平気そうには見えねえよ。ちょっと待ってろ・・・っと・・・」
「へ?や、ちょ、ちょっと!!・・・っっ!・・・」
前屈みになって学ランを脱ぐ。俺が覆いかぶさると、いちごが身体を硬直させるのがわかった。
「・・・ほら、これ着とけ」
そう言って、肩から学ランを掛けてやる。
「・・・や、でも・・・そ、そしたら山崎宗介が寒くなっちゃうから・・・」
・・・いつまでフルネームで呼んでんだよ、こいつは。
俺はこれぐらい平気だったし、何より目の前で震えられてるほうが気になって仕方がない。
「俺は平気だ。いいから着とけ」
「は、はい・・・ありがとうございます・・・」
ずっと前を見てたいちごだったが、礼を言う時少しだけこちらを振り向いた。そしてまたすぐに前を向く。その瞬間、ふわりと揺れた髪から妙に甘ったるい香りがした。
そういえば、さっき抱き上げたこいつの身体が驚くほど軽くて柔らかかったことをなぜか今になって思い出した。