第4章 腹の底から
「いや、お、おい・・・」
「・・・」
いちごはまだ頭を上げない。この状況は相当やばい。俺のようにでかいのが、こいつみたいに小さい奴に頭下げさせてしかもそいつは泣きそうで。端から見たら完全にいじめだ。
「いや、もういいから。別に元々怒ってねえし。頭上げろ」
「・・・はい」
ゆっくりと頭を上げたいちごの瞳には、予想通り涙が少し滲んでいて、思わず動揺してしまう。
「あー・・・いや・・・その・・・つまり、今日は見てたのか・・・俺の泳ぎ」
まさかいきなり謝りに来て泣きそうになるなんて想定外だったから、なかなか言葉が出てこない。それでもさっきのいちごの言葉を取っ掛かりに、なんとか会話を繋いだ。
「はい・・・そうです・・・あ、あの!!!」
パッといちごの表情が変わった。前も思ったが、こうくるくると表情が変わるところが面白い。
「す、すごかったです!!!!!」
勢い良くガッツポーズ。
「ボキャブラリーが貧困で申し訳ないんですが、とにかくすごかったです!!!!!」
いちごはガッツポーズを決めたまま、ずいと身を乗り出してくる。その勢いに押されて2,3歩後ずさってしまった。
「お、おお、わかった。わかったから、まあ落ち着け」
「いえ、落ち着いてられません!こうやって!こうやって!!水をかき分け!かき分け!!進む姿が本当に力強くって!!正直、悔しくてたまらないんですが、つい見入ってしまい「ぶ!はははははっ!!!!」
「や、え?ど、どうしたんですか?」
急に笑い出した俺をきょとんとした表情で見るいちご。俺はまだ笑いが収まらない。
「おま、何だ、その腕の動き・・・ぶははははっ!!!」
正直、バッタを覚えたての小学生がやった方がまだましかもしれない。勢いよく腕をぶん回して、しかもそれを自信満々、目を輝かせながらやっているのだからおかしくて仕方がない。