第3章 息もできないぐらいに
「・・・事情はよくわからないが、お前がプールサイドを走ったのがそもそもの始まりだろ。だったらヒカリが悪い」
「まあ、遙先輩の言うとおりですね。プールサイドは走ってはいけない、なんて小学生でも知ってますから」
私達の前で、つり革に掴まって話を聞いていた遙先輩と怜先輩からは厳しい言葉。二人の言うことはもっともで、何も言えなくなってしまう。
捨て台詞を吐いてきてしまったのもそうだけど、自分にも非があるから、尚更顔を合わせるのが気まずい。合同練習が頻繁にあるのは部にとって嬉しいことだけど、今は逃げ出してしまいたい気分だ。
「まあまあ。ヒカリちゃんもわざとやったわけじゃないしさ。俺は山崎くんのことよく知らないけど、いきなり殴ったりする人じゃないと思うよ。だから大丈夫だよ。ね?」
真琴先輩はやっぱり優しい。身長はあの山崎宗介と同じくらいなのに全然違う。
「僕もそう思うよ。凛ちゃんの親友だしさ、そんな怖い人じゃないと思うよ。それに・・・」
こちらは私の左隣に座っている渚先輩。少しいたずらっぽい表情で、私を覗きこんでくる。
「山崎くん、ヒカリちゃんが可愛いから、つい意地悪したくなっちゃったんじゃない?」
「いえいえ!それは!それはないです!!」
・・・それは絶対にないと思う。そんな小学生みたいな理由で意地悪してくるピュアな人間には見えない。ニヤリとした顔には、なんというか邪悪なものが込められているように、私には見えた。
「ま、でもさ。宗介くんの泳ぎはちゃんと見ておいたほうがいいよ?全国レベルの泳ぎなんて、なかなか見れないんだから」
「は、はい・・・そうですよね・・・」
これも後から聞いたのだけど、山崎宗介はバタフライで全国トップ10に入るくらいすごい人らしい。マネージャーとしてはぜひ見ておかないといけないのはわかる。わかる・・・んだけど、あんな意地悪な人がすごいなんて、なんか悔しい。