第1章 彼女という女優について
―――二十歳になったとき、母が亡くなった。心臓発作であっけなく。大動脈なんたらという、遺伝的、体質的なもので、ある日突然訪れる爆弾のようだった。
走れもするし、運動や日常生活に不備が起こることもない。通院する必要もない。ただ、一生何もないかもしれないし、明日発症するかもしれない、心臓の不具合。
誰も予想しなかったタイミングで、父が亡くなってからたった五年で、母は私たちの前からいなくなった。
父とは違って突然のことだったから、当時はとても大変だった。
よほどショックだったのだろうか。元々、母方は短命気味だったらしいが、それにしてもあっけなく、数年後には母方の祖父母もあとを追った。それぞれ部位は違えど癌だった。
手術もしたが、甲斐はあまりなく、それでも穏やかにゆっくりと身辺整理をして、行きたいところへ行って、したいことをして、夫婦仲良く、娘夫婦のもとへと旅立った。
まずは祖父がいなくなり、その後処理がひと段落したところで、図ったのか?とも勘ぐってしまうような私の仕事の少ない時期に、祖母もいなくなった。
そうして残されたのは、私と、弟と、離れた土地で生きる父方の祖父母だけになった。
もうこちらに呼び寄せてしまおうかと思ったけれど、引退し外部の人間に工場を譲ったと言えどまだまだ元気だし社員を見守りたいしということで、やんわりと断られてしまった。
今まで通り、季節の節目節目に物を送ったり会いに行ったりするに留まっている。
波乱万丈、とまではいかないけれど、少しだけ普通とは言い難い。
そういう人生を、私は送っている。
早くに両親を亡くし、祖父母ももはや半分しかおらず、ついでにいうと両親は一人っ子だったので従兄弟もいない。
近親は弟を入れても三人しかいないという現在。
何より仕事は、「一応」がつけども女優をしていて。
中学や、高校初期の私に話しても信じてもらえず鼻で笑われるような人生を過ごしている。
まぁ、それなりに、楽しんではいますけれどね。
そんな私ですけれど、これからよろしくお願いできたらと思います。