第10章 10
こんなに怒りが溢れた事は今までなくて
それをましてや一声だけど由梨に聞かせてしまい
タバコを吸いながら激しく後悔した
役者としての
怒りとか
怒鳴るとか
そういうのはやってこられたけど
自らの感情は初めてで
びくっと震える肩を見て
こんなつもりじゃなかったって
恐怖の顔を見て
多分
過去の傷を思い出させてしまった
必死に深呼吸して落ち着こうとする由梨
「俺のこと………怖くなった?」
俺は今
自分がちょっと怖い
「違う………和さんは、怖くない。
私が悪いんです」
震える手で空いてる手を握られる
ポロポロ泣き止まない由梨を抱きしめる資格なんて今はないから
握られた手をそっと握り返して
タバコを消して
スマホで秋ちゃんの連絡先を出す
「………あー。もしもし?今どっち?」
「今?二宮家で留守番してますよ」
「あ、そう。そしたらさ。今日は悪いんだけど」
「帰りますよ。アホでもわかります。今和さん切羽詰まってる声してる」
「フッ。…そうなのよ。ごめんね?連絡するまでは」
「はい。待ってます。フォローも必要ですか?」
出来た後輩だこと
ちょっと肩の力が抜ける
「そうね。もしかしたら必要になるかもね」
「わかりました。任せてください」
電話を切り
立ち上がる
「…和さん?」
「帰ろっか」
今由梨に
そんな事ないよとか
子供はいなくてもいいとか
言ったって悩んじゃうのはわかってる
いつもいつも自分のことは後回しにして
他人のこと、俺の事ばっかり最優先する
こういう人だってわかってたのに
やっぱりちょっと自分の欲望が垣間見えてたっていうか、気づかれちゃった自分に腹が立った
だって
本当は