第1章 1
あちゃー。
やってしまった。
此処はテレビ局近くの居酒屋街。
今日は歩いて帰ろうとキャリーケースをコロコロ転がしながら歩いていて、段差に思い切り引っかかり転けてしまった。
我ながらのおっちょこちょい具合に、はぁ。とため息をつきながら立ち上がりキャリーケースを起こすと少し先に見覚えのある物が2つ落ちている。
そして起こしたはずのキャリーケースは傾いていて自立が出来ない。
「え、うそでしょ。」
落ちていた物を拾いあげ見るとそれは明らかにキャリーケースのタイヤで。
いや、同時に2つ⁈
1つならまだ何とかなっても2つとなると話は変わってくる。
そして先日の和さんとの会話を思い出していた
「ねぇ。それ。新しくしたら?危なっかしくて見てらんない」
帰宅して早々に先に帰っていた和さんがチラッとキャリーケースを見ながら言う
もう長年使い続けているこいつはタイヤが少しぐらついていてたまにいうことを聞いてくれない。
それでも使い慣れてるし中々決定的な壊れ方をしてくれなくてずるずると使い続けていた。
私が、うーん。そうですねー。と言うとクスッと笑いゲームに視線を戻す和さん。
「まぁね。、分からなくもないけどね。使い続けちゃう気持ち」
そういう和さんは自分に重ね合わせているのだろうか。
和さんも中々物持ちが良くて未だに中学生の頃から着ている下着を使っていたりする
ちょっと破けてたりするから捨てれば?と聞いても私の返しのように、そーねー。と返事するだけ。
はぁ。
やっぱりあの時ちゃんと言うことを聞いとくんだった。
回想モードを早々に断ち切りこれからどうしよう。と思っていた。
タクシー呼ぶしかないよね。
そう思っていると、あれ?由梨ちゃん?と誰かに声をかけられる。
「あ、やっぱり由梨ちゃんじゃん。お疲れー」
片手を軽くあげ、うす。と言う彼は櫻井翔さんだった。
「わっ!!櫻井さん!お久しぶりです!お疲れ様です!」
いきなり現れた人物に勢いよく挨拶すると、ウハハっ。と笑ってた。
「うん。お疲れ。…とりあえずさ。その面白い状態の説明が欲しいんだけど」
私の両手を指差し笑いながらそう言う櫻井さん。
そしてそれに、アハハ。と笑いきれない乾いた笑いをするしかなかった