第2章 red
ない、ハサミがない。
スーツのボタンが切れたからと
私に裁縫を任せた彼。
終わったのだけれど
何故かハサミが見当たらない。
「ちゃん、ハサミなら」
と私に求めていたものをくれる彼。
「…翔くんって
私が欲しいもの何でもくれるね」
「なんですか、その殺し文句」
「え?殺し文句?」
「あなたってさあ、自覚症状なしで
そんなことホイホイ言ってる?」
「ホイホイって…
ゴキブリホイホイみたいに言わないでよ」
「言ってないよ」
「(つまらないこと言って)すみません」
私がハサミを受けとると
心配だなあ、と翔くんが言葉を漏らす。
「なにが?」
「どうせそうやって会社でも同期の奴に、
田中くんありがとう凄い助かった!
私と違って仕事早いから憧れるなあ、
とか満面の笑みで言っちゃうんでしょ?」
「…田中なんていないよ」
「拾うのはそこじゃないよ?」
わかってますけど、
違うもん、絶対違うもん。
「翔くんさ、
私が田中くんに色目使ってると?」
「うん」
「私がそんな器用なこと出来る、
いい女だと?」
「……すみません」
「…出来ればうん、が良かったんですけど」
「大体田中くんて誰」
「しょ、翔くんが言ったんじゃん!」
そうだった、とまたいつものように
笑う翔くんにつられて私の顔も緩んでいく。
「何も言わなくても、
私の体からは翔くんがいますので、
っていうオーラが出てるから心配ないよ」
「…だからそういうとこなんだって」
END.
「友達に彼氏のこととか聞かれない?」
「うん、毎回聞かれるよ」
「なんて言うの」
「スーパーマンだから忙しいって」
「………」
「何?」
「うんん、何にも。
(やっばい、死ぬほど好き)」