第1章 blue
動く度に当たるのは冷たい空気。
巻き付けたマフラーに頼るしかなく
背中を丸めてみるも
その寒さからは逃れられない。
夕方、
『 散歩、行こっか 』
と言った彼。
ミリタリージャケットのフードを被ると
誰も彼をその人だとは疑わないだろう。
公園のベンチに座った彼の後ろについて
人1人分の隙間を空けて腰かけたのは
調子の悪い気持ちと缶コーヒーのせい。
はい、
そう言って空いた私たちの間に
暖かいコーヒーを置くと
ありがとう、
いつもの言葉が返ってくる。
顔に触れるその冷たい空気と
手に触れるその熱すぎるコーヒーの
温度差は近くにあるのに
まるでそれは別世界。
私の気持ちを表すような
私と彼を表すような。
「智くん」
「うん」
「すき、ってなんなんだろう」
そんな意味のわからない質問。
自分の思いを
上手く言葉にすることが出来ずに、
直接伝えることが出来ない不安を、
抽象的な言葉に変えてしまった。
好きってなんぞや、
何の質問だ、哲学か、はは、
何言ってるんだろう、私。
なんて笑ってみると
空気と同じように乾いて聞こえた。