第1章 blue
背を向けた彼女に
「待って」と、
何処にも行きやしないのに
自分でも驚くほど
マヌケな声で呼び止める。
振り向いた彼女に近づいて
ぎゅっとその小さな体を抱き締めた。
「智くん?」と呼ぶきみの声が
心地いい。
あまりにも心地良すぎて
一瞬眠りそうなほど。
「…どっか行きたいとこ、ある?」
毎日我慢させて
こういうカップルの行事さえも
ろくに過ごせない。
今日だってたまたまで。
だからこんな日には
きみの本音が聞きたくなる。
「…そうだなあ」と
少し間を溜めた後、
「いつか、一緒に釣り、行きたいなあ」
なんて、またオイラに合わせるから
「いや、違う、ほら色々あんじゃん
ディズニーランドとか、」
「智くん、ディズニーランド行きたいの?」
「違う!ちゃん!」
「あはは、行きたくないよ」
「え?そうなの?」
「うん、それより美術館とかがいいなあ」
「だってそれはオイラの…」
全部、オイラが好きなことで
きみの意思はそこにない。
気遣いは嬉しいけど
なんだか悲しい気持ちになって
彼女を見つめると
ふふ、と笑って見つめかえされる。
「私は智くんが何かに夢中になって
口尖らせたり、目をキラキラさせたり
そんな姿が見れる場所だったら
どこでもいいよ」
「…ほんとに?」
「ほんとに」
「無理して」「ない」
「心配しすぎだよ」とまた笑う彼女が
「智くんが思ってる以上に、
ちゃんと気持ち伝わってるから」
と言ったけれど
その意味がよくわからなくて。
「…今日だって、
急いで帰ってきてくれたんでしょ?」
と何でもお見通しだから
「…ふふふ」と笑って答える。
「ご飯、食べよっか」
「うん」
いつもと何も変わらない、
そんなクリスマスも
悪くない。
END.
「ねぇほんとに
ディズニーランド行きたくないの?」
「…(なんでそんなに行かせたいんだろう)」
「(ちゃんのミニーは1回見たい)」