第5章 purple
打ち合わせが終わって
一礼して部屋を出た。
上司から
俺まだ用あるからお前先戻ってて
と言われ、資料を腕に抱えて廊下を歩くと
「さん」と後ろから走ってくる足音。
「…松本くん」
「怒ってる?」
「…ううん、怒ってないよ」
「ごめん、ガキっぽいことして」
ザワザワと、人の話し声が近づいてくる気配があると、松本くんが「こっち」と少し入った人気のない場所へと促す。
「…ほ、ほんとに怒ってないから」
かなり近い距離と、薄暗い雰囲気に
意識したくなくても、してしまう。
「…ほんと、に?」
と俯く私を下から覗き込んで
無理矢理視線を合わせようとする。
「ほ、ほんとだよ」
「…さん、俺本気だよ」
「……」
「必死すぎて、ごめん、…カッコ悪い」
松本くんの無理に笑う姿を見て
罪悪感にかられた。
私、何してるんだろう。
こんな若い子にここまで言わせて
キスまでさせといて
何も答えを出さないなんて。
これじゃあ、あの人と同じじゃない。