第4章 yellow
「うん、もうすぐ来るから」
「え?来る?」
頭にはてなマークを浮かべた彼女が
俺から視線を外したのはそのすぐ後で
だんだんと大きくなったその目は
俺に向くことはなく
小さく「なんで・・・」と震える声。
「か、かずくん、潤くんが」
きみは悔しいくらい素直で
まるでりんごのような
真っ赤な顔をするから
「うん、俺からのプレゼント」
そう言って笑ったら
やっと大きな目を俺にも向けてくれた。
「ごめん、遅くなった」と
息を切らしたように言う潤くんの登場で
俺の役目はこれで終わり。
「あ、しまった
職場に忘れ物したんだった」
なんて誰もがわかる嘘を
恥ずかしげもなく言ってみせる。
「か、ずくん!」
立ち上がる俺に眉を下げて。
そんな顔、
やめてよ
行きたくなくなるじゃない。
ふっ、と俯いて笑った後
こちらを見る潤くんに視線を移した。
「潤くん、あとはよろしくね」
「うん、また明日」
「?」
「・・・なに?」
「頑張りなさいよ、
明日話は聞いてあげるから」
「・・・うん、またね和くん」
店を出て外から二人を眺めると
潤くんが大きなバラの花束を彼女に渡して
一言添えた。
唇の動きで
そのメッセージなんて簡単に読み取れる。
花束を受け取り泣く彼女と
それを見て幸せそうに笑う彼は
すごくお似合いで。
これは俺が望んでいた
きみの幸せ。
渡せなかったポケットの手紙を握り締め
二人の姿にまた明日、を言い残して。
へ
お誕生日おめでとう。
もうどれくらい
この想いを胸に秘めていたのかな
笑うあなたの顔を
私だけのものにしたいと
そう想う夜が何度も訪れては
現実を痛感して何度もその想いを消した
でもいいんだ
またそうやって俺の隣で笑ってくれるなら
形なんてなんでもいい
潤くんを想うあなたが好きだった
だから俺はそれでいい
また明日、
いつも通りの朝が来て
いつも通りに笑うから
だから今日だけは
今日だけはきみを想って
目を瞑らせて
END.