第3章 gleen
ソファーにもたれ掛かり、
右手に持つそいつを見つめても
まだ呼び名が出てこない。
穴に人差し指と親指を通して
カチカチ動かしてみても
まだ思い浮かばない名前。
シルバー色がツヤツヤして
ハサミのように動くそれ。
皮膚に当てる先端はカーブを描き
黒いゴムを挟むようにして
上下に動く。
動かす度に浮かんでくるのは
こいつを使って化粧をする
彼女の姿だけ。
気付いたのは
今日仕事から帰ってきた時で。
床にコロンと転がるこいつに躓いた。
拾い上げてすぐに気づく。
2日前に泊まりに来た彼女の
忘れ物だって。
にしても、
こいつ、なんて名前だったっけ。