第3章 gleen
「あれ、みんなは?」
先に席に座り、すでにワインを
開けている彼に聞いた。
私の声にワンテンポ遅れて気づいた彼が
パッと顔を上げると
いつもの笑顔を私に向ける。
もう酔いが回っているのか
いつもより少し、
その黒目がちなリスのような目が
トロンとしていた。
「あーちゃん!お疲れーい」
「うん、雅紀くんこそお疲れ様」
「俺今日オフなんだよん」
「あ、そうだったんだ、
もう酔ってらっしゃいます?」
そう言って荷物をおろし
目の前の席に腰掛けた。
「ふふふ、みんななかなか来ないんだもん」
「て、まだ6時だよ?」
「あ、そっか。普通はまだ仕事だよね」
「うん、大体今頃帰宅かな?残業なければ」
「ちゃん早かったね」
「うん、頑張って終わらせてきた」
「俺のために?」
と頬杖ついて、
片手にワイングラスを持つ彼。
体の体温が
一気に上がった気がした。
雅紀くん、
私二人きりはまずいかもしれません。
絶賛アイドル真っ最中の
相葉雅紀くんと二人きりで飲むことなんて
まず無い。
高校の頃からの友達で
今でも男女含めたメンバーで
集まることはある。
けど、今まで一度も
こうやって2人きりで
みんなを待つことはなかった。
「あ、な、何飲もうかなあ!」
私の頭の中のコンピューターが
対応しきれず、
つい焦ってしまう。
「うっわ、話しそらした!」
あひゃひゃ、
と目を無くして笑う雅紀くんを
メニューを見るふりして
チラチラ覗いた。
お、お願いだから
みんな早く来てください。