第2章 red
兄が「新年に誰?」と私に言った。
「ね、新聞屋さんかな?」
「新聞も休みじゃないか?」
確かにそうか、と納得しながら
お雑煮をすすると
「あら、翔くん!」
と母の黄色い声が聞こえて
吹きこぼしそうになった。
その声の方を振り向く。
「お邪魔しまあす」とダッフルコートに
身を包んだ彼の姿がすでにリビングに。
「しょ、翔くん」
来ちゃった、と笑う彼が
私の後ろに視線を移して
目を輝かせる。
「わっ、こうたくん!」
「うわ、翔じゃん!久しぶり!」
「ご無沙汰してます、」と
笑う彼は私より先に
兄の方へと駆け寄る。
「明けましておめでとうございます」
と彼が頭を下げると
兄も同じようにそれを返して。
そしてやっと私を見て
「おめでとう、ちゃん」と
フンワリ王子さまスマイル。
「…おめでとうございます、」
正月早々に彼を見れるなんて
やっぱり嬉しい。
「あ、おじさんに挨拶しないと」
そう言って慣れたように父の仏壇へ。
仏壇をジッと見つめる彼の背中を見て
私はいい人を好きになったな
と確信する。
お父さん、私
翔くんのこういう所を好きになったよ。
お父さんもきっとわかってるよね、
ちゃんと見てくれてるよね。
彼が両手を合わせ頭を下げると
暫くして振り返り私を見る。
「ほら、ちゃんこっち来て」
手招きをして私を隣に座らせると
また仏壇に飾る父の写真を見て。
「おじさん、不束な僕ですが
おじさんの分までちゃんの
傍にいるので、これからもずっと
僕達のこと、よろしくお願い致します」
背筋を伸ばして正座した彼が
しっかり頭を下げたので
慌てて同じように頭を下げる。
「よっし、今日の任務完了」と
私を見て目を細めた。
「…ありがとう」
「挨拶はちゃんとしないとね
おじさん寂しがり屋だから
絶対拗ねるし」
そんな彼の冗談に
そうだね、と2人で笑って。
幸せなこの空間のせいで
涙が出そうになった。