第1章 プロローグ
「ねえ、そこで何やってるの?」
四歳頃ーーその頃には誰しもが個性が出る頃、当時の私は一人で暗い幼稚園の教室で絵本を読んでいた。
そんな時に話し掛けてきたのは、ヒーローランキング二位のエンデヴァーの息子である、『轟焦凍』だった。
私は話し掛けられた事に気付いて、彼の顔を見上げる。
「私が……見えるの…………?」
「え、だって、当たり前でしょ?」
ーー教室で本読んでるのを見えたから。
初めてだった。家族以外で私を認知してくれた人は。
幼稚園の先生も私を見つけようと頑張ってくれた。けど、当時の私は自分自身の影の薄さに混じる様に現れた最初の個性で、誰にも見つけられなかった。存在を忘れられる事が殆どだった。
今もそうだけど、当時も相当泣き虫な私はすぐに泣く事から、いじめっ子の虐める標的になっていた。
更に個性が出てきた故に、虐めはエスカレート。一人で過ごす事が多かった。
特に一番過ごしていた場所は、今いる薄暗い教室。そこで絵本を読んでいるのが楽しくって、誰にも邪魔されなくて好きだった。
「で、何やってるの?」
私の存在が分かる、驚く反応にまったく気にしないのか当時の焦凍は話す事を続ける。
平穏だったその場を壊された事が気に入らなかったとか、決してマイナスな事を思った訳じゃない。
「な、何で泣いてるの!?」
私を見つけてくれた事が単純に嬉しくって、私は泣いた。大声をあげて、嗚咽を漏らして、息が出来なくなる程泣いた。
初めてだった。家族以外で初めてだった。
この時から、『彼』の存在は私にとって特別な存在だった。
そして二人で約束をしたんだ。
ーー二人でヒーローになろう!
純粋に思ったのだ。テレビの前で敵を倒して、救うヒーローの姿に憧れて、なりたくて。唯々、誰に言われたでもなく純粋に。
でも、その夢は成長と共に忘れてしまった。
片や理不尽な大人達による現実を突き付けられた上で、そんな大人達にならない為の証明としてヒーローになる事を目指し、片や親の力を必要とせずともヒーローになれる事を証明する為にヒーローを目指す。
本当に忘れてしまったのだ。
そんな本来の純粋な動機を忘れた私の、同様に忘れてしまったチートな彼の背中を追ってヒーローになる話。