第2章 『酒場の女』
カラン。
軒先に吊るしたベルの音、入ってくる客は見たことのない顔だが、自然と口角が上がり、笑顔になる。
「いらっしゃい!」
今日は来ないのかしら。
そんな思いばかりが募るいつもの時間。
まだ夕食まっ盛りの時間。いつもこの時間に彼は来ない。もう少し、あと少しだ。ほら、来た。
「いらっしゃい! 今日も来たね」
そんな冗談を飛ばす相手は、この酒場にはあまり似つかわしくない少し上等な服を着た男だ。今日はほかに仲間を連れてきたようだ。
「へぇ! 結構いい酒場じゃないか。ずるいぞエルヴィン、隠していたなんて」
「隠していたわけじゃない、お前たちを連れてくると、騒いで迷惑かと思っていただけだ」
最後の言葉は私に向けて。
名前も知らない男、どんな仕事をしているのかも、初めて連れてきた仲間は何の仲間なのかも私は知らないし、聞かない。
「別にかまいやしませんよ。お客さん、いつも静かに呑んでるだけですから、たまにはいいんじゃないかい?」
「せがまれてな。軽いつまみと酒を」
「あいよ」
ジョッキにビール。それを四つ。腕につまみを乗せた皿を乗せ、器用に客の間を抜け、彼らの席へ運んで行く。
どすんどすんと、テーブルに並べれば、目を輝かせる髪の長い客。
あとの二人はあまりしゃべる方ではないのだろう。
少し不機嫌そうな男と、ジョッキを受け取り、黙って皆の手にジョッキが渡るのを見つめている男。
いつもの少し上等な召し物の男は、いつもより楽しそうに笑っている。
「注文は以上だよ。また何かあったら呼んで」