第5章 『風邪』
へにゃ。と笑うビーネに何かが耐えきれなかった。
コップを片手にしたビーネに近づき、その体を引きよせ、顔を近づける。
「……まだ、熱あるな」
ごつん。と合わせた額はビーネの方が温かかった。
「エドのおでこは冷たくて気持ちいいよ」
「悪かった。無理させちまって」
「エドの所為じゃない」
ゆっくりと離れたビーネの体。
もう離れるのか。と惜しんでいると、ビーネが俺の機械鎧の手を取って、自分の首に当てた。
「申し訳ない顔するな。エドのそう言う顔見たくない」
「でも」
「じゃあ」
ビーネはコップをシンクに戻し、また気の抜けた笑顔を俺に向けて来る。
「氷枕が役に立たなくなったんだ。この冷たい手、一晩貸してくれないか?」
心臓が跳ねた。
「あ、あぁ。良いぜ」
薄暗いリビングでもビーネだとわかる、乱れた長い金髪と空色の瞳。
それが今は俺だけに向けられていると思うと、身体が熱くなる。
ビーネに触れているのが機械鎧の腕で良かった。
この身体の熱がどうかビーネに伝わりませんように。
ベッドに横になるビーネ。
その額に俺はそっと冷たい右手を乗せ、空いた左手で、眠るビーネの頬に触れる。
「エド……」
「ん?」
「ありがとう」
この言葉は俺の物だ。
大佐にはできないことが、俺にはできる。
たまの無理も風邪も悪くはないと思ってしまった。
・・・