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88リクエスト集

第3章 『チロヌップ』




「いや、言い訳じゃな。愛しい者の幸せに少し妬いたのじゃろう。覚悟しておったと言うのにの」
「……殺されたのか?」
「いいや、病での。なに、暗い顔するな。お前の想像よりはるかに幸せで充実して満足じゃった」
「アイヌの地にその身を納めに来たのか?」
「私の身は他にある。ちょいと遊びに来ただけ。鋭気を養い、いつか愛した者たちの前へ戻れないかと……」

 アイヌの娘とアイヌ生まれのチロンヌプは、静かに見つめ合い、言葉のない会話を交わす。

「アイヌの伝説は多くある。その一つ一つ、お前の心に宿っているようだ」
「私は……」
「クトゥネシリカ」
「え?」
「そのように真っ直ぐに。私には何を見る力もない。だが、お前のその瞳と心には、真っ直ぐと剣が見えるよアシリパ」

 今は真冬だ。
 黒いキツネがふわりと靄のように消えて行った後には、淡くも強烈に、この北の地ではなかなか嗅ぐ事のない梅の花の香りがした。

「うん? あれ? アシリパさん、俺」
「転んだ。杉元はおっちょこちょいだなぁ!」

 名前。どうしてあのキツネは私の名前を知っていたのだろうか。口に出して杉元に問うのもおかしい。
あのキツネは私に何かを伝えたかったのだろう。
まだ、私にはその伝えたかった事が何なのか、分からない。
これから先、必要になる事なのだろう。
 これから先、この杉元と共に金塊を追うために。




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