第3章 里帰り
ルプスがこの城に来て丁度、3ヶ月になると彼もようやくここでの生活に慣れ始めた様だ。生活はここの寮を使っているが休みの際は城下に下宿しているらしくその家から貰うお菓子をよく土産として持ってくる。
城内の人、城下の人達とも友好を築いてきた彼が休日にも関わらず書斎にいた時は少し驚いた。
しかも、本を読んでいる途中で眠ってしまったらしい。幼いながら我々の公務に合わせてしっかり仕事をしているのだ。その上目端もきくらしく、メイド達の仕事も手伝っている。目尻には疲労が色濃くうつる。このまま休ませておこうと踵を返した時
「お・・・・て、・・・・か・・・ない、で」
悲しげな声が聞こえる。よく見ると閉ざされた瞼に浮かぶ雫。眉間に皺が寄り幼い顔は酷く苦しげだ。夢に魘されている一目で分かる顔。起こすべきかと思い肩を揺する。「一人で、出来る・・よ。お手・・伝いさせ・・て、何も、いら・・・ない、から。・・・お願い、だから・・・ずっと傍に・・」酷く悲壮で哀憫を覚える顔に、幼い子供であることを改めて思い出す。同時にまだ親の庇護の元に入るべき子供が何故親元を離れこの国に来たのかと
「傍にいるから、ルプスが、まもるから・・・・」
握られた手はいつもより白くなっている。涙がふっくらとした頬に幾重にも連なる。「なか、・・・ない・・で・・・」
ふと花の芳しい香りが小さな手から溢れる。カモミールとミモザの優しくも暖かな陽だまりの様な
「はは、・・・・さ、ま・・・・」
幼子の甘える声と共に眉間のシワは解かれ、健やかな寝息が書斎に響く。涙の跡が頬に痛々しくも残るが新しく溢れることはない。
「暫く公務はお休みとしましょう。今後の課題はゆっくり休息をとることを覚えさせなければ、全くそういう所も貴方にそっくりですね」
そう言って、優しく頭を撫でてやる
「良い夢を、小さなプリンス」
そうであったならそんな想いを込めてそうジルは呟いた。