第1章 序章
「・・・・!」
一瞬息が止まった。
何が面白かったのか口元を手で隠し微笑む妙齢の女。
口を覆うか細い白い指、シミひとつない白い肌、細く整われた形の良い眉。
陽だまりのように美しい笑顔。
「ステラ・・・・・」
恋しい愛しい妻に生き写しの顔がそこにあった。
「報酬もなしに無理やりここへ連れてこられて文句の一つでもいいに来てみれば、騎士様の茶番劇を見れるなんて思ってもみなかった。」
ステラより少しだけ低く俗っぽい口調と少し吊り上った青い瞳がゼノの瞳の奥に映った。
「キサマ、どこからここに入ってきた!!?」
アルバートがきつい口調で女に尋ねた。
「ドアからに決まっているでしょう?あんた馬鹿でしょ??この部屋には窓ないんだから、それとも天井から侵入した方がよかった??
ちなみにこの城へはお偉いさんが無理やり連れてきた。
もっとも、その本人はそこの機嫌悪そうなお偉いさんに怒られて逃げちゃったけど」
「貴様!!ゼノ様に対しなんと無礼な!!・・・ユーリキサマ何を笑っている!!?」
「プクク、だってアルに対して、そんなはっきりと、しかも天井ってクックク」「無礼とはわかってますけどね、いきなり連れ去られて、王様がお前に会いたがっているとか言われたから仕方なく来たのに当の本人会う気ないし、連れてきた人逃げちゃうし文句の一つくらい言ってもいいはずでしょ?
髪まで染めさせられて・・・報酬倍増ししてもらわないと」
話す内容もしゃべり方も違うが、声も仕草もよく似ていた。
「浚われたんですか?」
「えぇ、さっきまでいたあの官僚さんに、故郷に帰ったばかりで家に帰ろうとした矢先に・・・まぁ道すがら『報酬』と『仕事内容』聞いてたから、お客さんだったけど、まだ報酬貰ってないから人さらいで十分でしょ
それで私の顔を見れて満足か?依頼主殿」
似ているが今まで見てきた人間とは違う不快感がない。
酷く明るく勝気な目が美しいと思った。
「あぁ、愛しい妻ではなかったが、驚くほど似ている
官僚にはあとで必ず支払わせる故郷までの旅費も出そう。迷惑をかけたな・・・・名は」
「西の辺境の国よりウィスタリアに帰ってきました。
薬剤師をしている『ルナ』だ入用ならばぜひ店に」
そう言って執務室を出ていった。