第2章 ガーベラと嘘。*
「はるちゃんただいま~」
「っえ、い、至さん?」
「悪い。至さん今酒入ってっから」
「え、あの、大丈夫ですか?」
「はるちゃんはいつも可愛いね~」
「ちょ、ちょっと、万里くんたすけ、」
「俺もう寝るわ。んじゃ」
時刻は夜の11時過ぎ。玄関のドアが開いたかと思えばいつも以上に陽気な至さんに背後から抱き締められた。身動きの取れない私を遠目に万里くんが「ただいま」と声を掛ける。二人がご飯を食べに行っていたのは知っていたけどまさかお酒を飲んでくるなんて。万里くんはもちろん飲んでないみたいだけど。執拗に私の頭を撫でまわす至さんはだいぶ重症かも知れない。万里くんは軽く手を上げるとさっさと自分の部屋へと戻ってしまった。
この時間談話室には誰もいない。朝ご飯やお弁当の仕込みも終わって後は調理器具の片付けだけなんだけど。一向に離れてくれない至さんを部屋に戻すのが先か、それともこっちを終わらせるのが先か。腰に回された至さんの手をぽんぽんと軽く叩く。
「至さん、お部屋戻りましょう」
「はるちゃん連れてって~」
「もう…じゃあこれ洗ってからでもいいですか?」
「もち。待ってる」
酔ってるふりなんじゃないかと思うくらいはっきりとした返事をもらってしまった。でもまあ仕方ないかとスポンジに洗剤を出し、わしゃわしゃと泡立ててから包丁やら鍋やらを洗っていく。もぞもぞと背後で蠢く至さんの額が肩に乗り、すり寄ってくる髪にくすぐったさを覚えながらも黙々と洗い物を済ませていった。
突然、服の下から至さんの手が滑り込んで来た。びくりと体が跳ね洗い物をする手が止まる。至さんの顔は相変わらず伏せられていてどんな表情をしているのかわからないけれど絶対いたずらっぽく笑ってるに違いない。
「至さん?」
「…んー」
「邪魔するなら早く寝てください」
「邪魔しない」
「………」
疑っても仕方ない。とは思うけど、服の中から出てこない手が邪魔しないわけがないと嘲笑ってる気がする。不信感を抱きつつも仕方ないので洗い物を再開する。