第2章 ガーベラと嘘。*
「…ん…、」
気が付けば夜が明けていて、私は自分の部屋で目を覚ました。窓の外から聞こえる鳥の囀りが心地好く二度寝へと誘う。ぼんやりと天井を見上げて数分。そういえば今は何時だろうと時計に視線を移して飛び起きた。ばたばたと慌ただしく談話室へと向かう。途中感じた体のダルさが昨日の出来事は夢ではなかったことを思い知らせた。
まだみんなが起きてくる時間ではなく、談話室に人影がないことにほっと安堵の息を漏らした。早く身支度を済ませて朝食を用意しないと。確か昨日仕込んでおいたから。頭の中で呟きながら念の為冷蔵庫の中を確認する。そこで何の気なしにシンクを見て足が止まった。
「…あれ、確か昨日洗ってる途中で…」
シンクの中に洗い物は残されていなかった。そういえば汚れたはずの寝巻も別のものに変わっている。もしかして至さんが。
そこまで考えて時間がないことを思い出し、とりあえず準備しようと洗面所へと向かった。
身支度を終え、仕込んでおいた朝食に火を通していると続々と劇団員たちが起き出してくる。昨日のことを思い出してなにか言われるだろうかと警戒していたものの誰も昨日のことには触れず、まあ確かに言いづらいことではあるかと一人納得した。
朝外出する人の順番に朝食を出し、お皿を片付けて次の人へ。それらを繰り返していると玄関へ向かう人影が見えたのでいつものように見送りへと後を追う。
「、あ」
最初に家を出るのは至さんだった。聞けば朝早くから片付けたい仕事があるとか。作っておいたお弁当を手渡し、少しむっとした表情で至さんを見上げる。
「至さん、今後はお酒控えてくださいね」
「…なんで?」
「なんでって、昨日酷かったんですから!」
「昨日…あー、昨日ね」
はいはい、と口元に笑みを作る至さん。不思議そうに首を傾げると至さんが視線を合わせるように僅かに屈んだ。にっこりと営業スマイルさながらの笑顔を向けられて少し怯む。
「昨日の俺素面だから」
「え?」
「んじゃ、いってきます」
軽く触れるだけのキスを残して笑顔の至さんは仕事へと向かった。そういえば昨日キスしたときお酒の匂いがしなかった。でも確か万里くんが。少しの間ひとりで考えた結果、ふたりに騙されたのだという結論に至り、帰ってきたら絶対説教してやると意気込むのでした。
了。