ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第4章 関係が拗れる話
「桜、服は脱衣場に置いたからそこで着替えてきて」
「ありがと…」
撫でていたマッカチンから手を離して脱衣場へ行けば、ヴィクトルの用意した服は直ぐに分かるところに置いてあった。
某有名ブランドのショッパーに入ったそれは新品のレディース服。
サイズも桜にぴったりの代物で、彼女はまさかとは思いつつ、脱衣場から出ると着替えを待っていたヴィクトルに疑問を口にした。
「もしかしてこの服…」
「君に似合うと思って買っておいたんだ…まさかこんな風に渡すなんて思ってもみなかったけど…」
「……そういう事するから勘違いして好きになっちゃうんだよ、次の相手…うんん、何でもない。服ありがとう、じゃあさようなら、マッカチンもさようなら」
「ああ、さようなら…桜」
桜が荷物を持って男の家から出るとしばらくしてドアの開く音がした。
しかし声を掛けられることも無く、桜は気付かないフリをして、1度も振り返らずに家へと帰った。
「次の相手…彼はまた日本人の身代わりを探すのかな?」
思わず口をついて出た言葉に胸がズキリと痛んだ。
彼女は最後の会話の時に、次の相手には服を買うなんて優しいことしない方がいいよ、と本当はそう言いたかった。
しかしそれを口にする事は出来なかった。
桜はあれだけ手荒く抱かれても、ショックを受ける程酷い事を言われてもまだヴィクトルの事が好きだったのだ。
家に帰るなり娘の顔色を見た母親は何があったのか心配して訊ねたが、桜は「夜通しお酒飲んで愚痴を言い合ってた。連絡せずにごめんなさい」と嘘をつき、自室にこもると、男からの最後のプレゼントである服を脱いで部屋着に着替えた。
そこで涙腺が限界を迎え、我慢していた涙が後から後から流れてきた。
(こんなに苦しい思いをするなら、出会わなければ良かった。もう忘れたい。)
溢れ出る涙を拭いながら、彼女はそう思った。