第7章 ラブレター
「あ、そういえばさぁ、昨日ねぇ、赤葦がラブレターもらってるの見たよ~」
聞き捨てならない台詞が雪絵さんの口から飛び出したのは、部活中のこと。
思わず、作りかけのスポーツドリンクのボトルを落としそうになる。
「…っ、誰にですか!?可愛い子でした!?付き合うことになったんですか!?」
赤葦さんがモテるのは知ってる。
告白されてるのを目撃した、なんて話も何度か聞いたことがある。
入部した時から赤葦さんに片想いしている私は、そんな話を聞くたびに気が気ではない。
誰かに先を越されるくらいなら…と思って、実は私も密かにラブレターを書いていたのだ。
このタイミングで赤葦さんに彼女ができたら、立ち直れない…!
「どうなんですか!?雪絵さん!!」
「ちょっとぉ、汐里ちゃん落ち着きなよ~。話には続きがあってね?」
―――――………
部活後の部室。
この前の小テストの結果が散々で、今、私は赤葦さんに英語の先生をしてもらっている。
「汐里。ここのスペル、間違ってるよ。あと和訳の漢字も」
「……」
「こら。聞いてる?」
おでこをコツンと指先でつつかれ、慌てて顔を上げた。
「…っ、すいません、聞いてませんでした!」
授業中、ボーッとしている時に限って先生に指されてしまうのはよくあること。
その時の緊張感を思い出し、私は背筋を伸ばした。
「今日暑かったしね。疲れてる?」
「そんな!赤葦さんを差し置いて疲れてるなんて…」
熱気の籠る体育館の中で練習プラス自主練に励んでいた赤葦さんの方が、よっぽど疲れているはず。
それなのに私の勉強まで見てくれて…。
ああ…、考え事してボーッとするなんて、とんでもなく失礼な後輩だ…。
「すみません。ちゃんとやります」
「うん。あれ、ここ"R"か"L"かどっちだっけな…。ごめん、辞書ある?」
「はい」
バッグから辞書を出し、単語のスペルを調べようと分厚いそれをパラパラ開いた。
その時―――。
辞書のページを捲る音に紛れて、一枚の紙がハラリと床に落ちていく。