第60章 葛藤
「じゃあ…お互い同じなんですね。」
「ッ…」
そっと幸男さんの手に触れる。幸男さんから初恋だと聞いて嬉しくなり微笑むと幸男さんの顔が赤く染まっていた。
触れていた手を幸男さんが握り返してくれ、幸せな気持ちに浸っているとふと時計に目が入る。
「もうすぐ…約束の時間ですね…そういえば桐生は…幸男さん会えましたか…?」
「あぁ…途中まで一緒に居た…聖知を探して二手に別れてからは…会ってねえな」
「そうですか……じゃあ、そろそろ…」
「本当に大丈夫か…別に今日じゃなくても…色んな事あったし、無理してねえか…」
「…………」
約束の時間が刻々と近づいている。
幸男さんの言葉に何も言えなかった。
元々は桐生と和解するつもりでいた。
記憶を鮮明に思い出すまでは…
辛い記憶に蓋をして、彼が私にした事を考えると…『本当に許してもいいのか』と葛藤してしまう。
「聖知…体調悪いんなら…」
「幸男さん…体調は大丈夫です…とりあえず、ここから出ませんか…?全部話するので…」
「… 聖知がそう言うなら……」
幸男さんと一緒に部屋を出て女医さんにお礼を伝え救護室を後にした。まだ人ごみが多く、幸男さんに引っ張られるまま公園から出て人が疎らになると一息をついた。