第56章 真実
「何を言っても綺麗事に聞こえるかもしれませんが…この9年間貴女を苦しめてしまい…申し訳ございませんでした。」
「………それは…本心で言ってる事なの…」
「…どういう意味でしょうか。」
「…桐生が…嘘をついているとは思えない。でも…心のどこかで私を騙そうとしてるんじゃないかって…やっぱり疑ってしまう。」
「…………」
桐生が頭を下げて謝る様を見ても今だに聖知には信じられかった。桐生の過去を聞いて驚くと同時に同じ苦しみを受けていたと感じ、彼も人生を振り回された1人だと思っていた。
だからこそ、信じ込ませて自分を利用してお祖母様に復讐をしようと企んでるんじゃないのかと聖知は疑っている。
桐生が謝罪をしているにも関わらず、そう思ってしまうのは…自分自身が『桐生を憎んでいるんじゃないのか』と自己嫌悪に陥り、いくら考えても何も結論は出ず小さく息を吐いた。
「……今日は帰る。正直…まだ混乱してて頭の整理が追いつかないの…」
「…わかりました。では、また後日…話の席を設けます。」
「…………」
静かに席から立ち上がり、笠松と一緒に部屋出て玄関ホールまで歩いて行く。その間、誰も言葉を発することはなくホール内は静まっており静寂が訪れていた。
「…では、お気をつけてお帰りください。」
「…………」
聖知は桐生から目を逸らし、黙ったまま屋敷から離れて歩いて行く。笠松も引き続きついて行こうとすると桐生に呼び止められる。
「……笠松様…私がこんな事言うのはおこがましいですが…お嬢様の力になってあげて下さい。」
桐生は聖知の後ろ姿にふと目を移し、聖知には聞こえないくらいの小声でお辞儀をして笠松に伝える。
謝ったとしても、今回の話で聖知をさらに深く傷つけてるに違いないと桐生は考えていた。だからこそ…彼女を側で支えてくれる者が必要不可欠で非難されるのを覚悟で桐生は頭を下げた。
「……言われるまでもねえ。」
桐生の言葉に立ち止まるが、笠松は振り向く事なく早足で聖知を追いかけ如月家の屋敷を去っていった。