第55章 証し
「…………」
お祖母様にとって…私はただの事業を拡大するための道具
赤司君との婚約だって…日本での勢力を拡大するための政略結婚だ。
私の意思は必要ない。
そんなの…今更わかっていたことであっても…
言葉にされると胸が痛い
こんな気持ちになるのが嫌だから…
この屋敷を出たのに…
結局は何も変わらない
私は自分の過去を思い出してしまい、急激に切迫した気持ちになり激しく喉が渇く状態に陥った。
私は人形なんかじゃない
誰かの命令で、もう言うことなんて聞きたくない
今更…感情を捨てることなんてできない
そう叫びたいのに…
喉に何かが挟まってしまったように声が出ない
私は……
私が自分の気持ちと葛藤していると、さっきよりも大きな声で幸男さんの声がホール中に鳴り響いた。
「聖知は人形なんかじゃねえっ!
感情だって…自分の意思だってちゃんと持ってる…
1人の人間だっ!
俺にとって…かけがえのない大切な女性です。
聖知の事…物としか扱えないなら…
家族だろうが…関係ねえ…!
ぜってえ…聖知は渡さない。
聖知を傷つける奴は俺は許さねえ!」
「っ……」
自分では言えなかったことを、幸男さんは物ともせず言葉にしてくれた。
ただ…幸男さんの言葉に私は涙を流した。
いつも本当に力になってくれる。
自分の気持ちに精一杯でいつも幸男さんには気づかされてしまう。
私は1人じゃないって…
一緒に寄り添って戦ってくれるって…
「……合格です。」
幸男さんの放った言葉にホール内はしばらく静寂が訪れ、横にいた桐生は軽く息を吐くと、はめていた手袋を取ると響くような大きな音を立て拍手をした。