第55章 証し
「私が、誰であろうと関係ないでしょ。
今すぐ、この屋敷から立ち去りなさい。」
誰………
「そして…聖知には2度と近づかない。
そう約束するなら…見逃してあげるわ。
まだ人生…終わりにしたくはないでしょう?」
一体……誰なの……
遠くからでもその女性の顔がはっきりとわかる。
全く知らない女性…それなのになぜ自分の名前を知っているのか…聖知はわからず困惑していると桐生は聖知にしか聞こえない声量で耳打ちするように話を始める。
「お嬢様……あの女性ではなく…
言動に…ご記憶はございませんか?」
「………」
桐生にそう言われて女性の放った言葉を思い出す。
顔を見ないで考えるとある1人の人物が脳裏に浮かぶ。
それと同時に似たような言葉を昔…言われたのを思い出した。
–––9年前–––
『…ほら…復唱なさい』
『……っ……』
まだ如月家の屋敷に連れてこられて間なしの頃、お父さんが来る前日にお祖母様に何度も高圧的にある言葉を復唱させられた。
バチンッ
『言葉がわからないのかしら。』
黙っていると頬を叩かれる。
お父さんが迎えに来た時のために、祖母は私に帰りたいと言わせないように、屋敷に連れて来てから毎晩圧力をかけていた。
『っ……』
叩かれた頬がジンジン痛む。
でも頬を抑えたらもっと叩かれることがわかっていて何もできなかった。
『いいこと…聖知…
もし…帰りたいって言ってみなさい…
2度とパパとママには会えないわよ。
それだけじゃないわ…
バスケ…だったかしら…
あの男から2度とできない様奪ってやるから…』
『っ…!』
『そんなの嫌…よね?
帰りたいなんて2度と言わない。
そう誓いなさい。
まだこれからの人生…
1人っきりで過ごしたくないでしょう?』
「…………お祖母様…」
辛い過去を思い出してしまい、聖知は口にするのも重々しくやっとのことで呟くように言い顔を俯かせる。