• テキストサイズ

爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇

第5章 悪意 中國山地


 静まった空間を靴の鳴らす音だけが響く。管理職として多忙となった若い男は仕事を漸く始末して宿舎に帰ろうとしていた。

 山路兵介。かつて出雲で剛勇を謳われた若武者は背こそ人並だが肉体は良く磨かれ、齢三十に満たずして既に壮年の歴戦の猛者たる雰囲気があったが、内実は滾(たぎ)る想いに蓋が出来ず、現と望みの狭間にて苦しんでもがいている青年そのものであった。今趙雲或いは麒麟児、そう呼ぶのは人の勝手。兵介は常に兵介であり、これからも兵介である。自分が自分である事に否を告げる気など、更々ありはしない。

 少し、喉が渇いた。兵介はそう感じると帰り道から逸れて、都督府官舎の休憩所に足を伸ばした。

 官舎の空調は昼間に比べて弱まり、肌が汗ばんで衣服を湿らして気持ちが悪い。まして兵介はオフィス仕事での汗かきを少し恥ずかしく感じていた。昔は闇雲でも前線で一心不乱、只々戦っていればそれで済んだ。今、兵介に求められているのはそれではなく、多くいる、かつての兵介達を纏め、しごき、育て、制止しながら一方で塵芥のように扱う事だ。こうなりたかったわけではない。だが、どうなりたかったのか? それを漠然とした形でしか答えられなかった兵介は自分の倫理と義務によって、白い汚れの目立つオフィスのデスクに己を張り付けた。そうあるべきだ、と心に決めて彼はその道を選んだ。

 ただそれでも思う。出雲介の滅びと共に死んでおくべきではなかったか。そう思い出すと胸が締め付けられた。それが青年期独特の死への憧憬なのか彼の別の破滅願望なのかは自分でもよくわかっていない。しかし、生きるという事が少し重荷となって来た。自販機から買ったアメリカ産の炭酸水で喉を潤し、これまたアメリカ産の煙草を咥えた兵介は、嗜好という枷を堪能して余計に疲れを感じていた。

 腰のホルダーが揺れた。兵介は素早く手を回して携帯を開き、通話ボタンを押した。出雲から一時離れて関東で働いた時、電話は3コールで出るように厳しく教えられていた。あの教会、やけに商人臭くて堪らず、結局3か月で逃げ帰ってしまった。兵介に残ったのは僅かなビジネスマナーと教会への苦手意識だった。

「はい、山路です」
/ 159ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp