第7章 走れサンタ!/二口堅治
サンタ仕様の手袋は防寒にはいまいちの作りで、二口はかじかむ手に息をふきかけ、こすり合わせた。ついでに冷え切って赤くなってしまった鼻のてっぺんを覆って温める。白い息が立ち上って二口の視界に入った時、通りを行く人物に見覚えのある姿を見とがめた。
「……?」
今日の約束を反故にした彼女は、一人ではなかった。隣に男の影を連れて通りを楽しそうに歩いている。
瞬間、二口の頭に『別れ』の二文字が浮かんだ。
もうすでに次の相手がいたとは気が付かなかった。だからあんなにあっさりクリスマスの予定をキャンセル出来たのだろう。ずっと前から計画して、楽しそうにしていたのにおかしいと思ったんだ。二口の心の中は、怒りというより寂しさでいっぱいになっていた。
――新しい相手がいるのなら、きちんと俺を振ってからにして欲しかった。俺だって馬鹿じゃない。言われればちゃんと納得して、別れたのに。
せめての新しい相手がどんなやつなのか、見定めさせてもらおう。二口はそう思って、の横にいる人物に目を凝らした。
「……っ」
二口がの横の人物が誰なのか理解した瞬間、息が詰まった。彼女の隣で微笑んでいるのは、二口にとっても身近な人物だった。
「……おいおい、まさかの茂庭さんとか、マジかよ」
前主将の、茂庭要。彼はいつも二口達に振り回されているどこか頼りない部分のある先輩だった。けれど彼のあげるトスはいつだってスパイカーを思った優しいトスだったし、普段の生活でもその人柄の良さがにじみ出ていた。
時に赤の他人の世話をして遅刻することもあったし、よく人の相談にも乗ってあげるような優しい人物だった。
も普段からよく茂庭に相談を持ち掛けていたのを、二口は知っている。相談しているうちに、二人はそういう仲になってしまったのだろうか。近すぎて気が付けなかった。
まさか茂庭がとそういう関係になるとは、二口は微塵も思っていなかった。だから二人がよく会って話していてもさして気に留めることもしなかった。
今思えば、それはなりのサインだったのかもしれない。放っておいていいの? と言外に彼女は訴えていたのかもしれない。
「……察してちゃんじゃ分かんねぇっつうの!」