第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
歩いて帰る気だったのだろう、さんは言葉に詰まってしまった。
冗談だろ。こんな深夜に家まで歩きで帰らせるわけねーだろ。
「バカか。泊まっていけばいいだろ」
「えっ……でも……」
困惑した表情のさんに、驚くやら呆れるやらだった。
あれだけの押しの強さを見せているというのに、なんで肝心な時に遠慮がちになるのか意味が分からない。
「あんた、風呂は。その恰好じゃ、入ってねぇな」
「…はい。におい、ますか?」
「違ぇよ。そうじゃなくて、風呂入りてぇだろ。お湯はってやるから、入れ」
「は、はい……」
ますます縮こまるさんを尻目に、風呂にお湯を入れに行く。
脱衣所にバスタオルとフェイスタオルを置いて、居間に戻る。
「着替えは……持ってきてるわけねぇな。…しゃあねぇなぁ」
さんは縮こまって黙りこくったまま。
夜になると性格が変わるのかと思うくらい、昼とはうって変わって大人しい。
妙だと思いつつも、自分のタンスから比較的マシそうなTシャツとズボンを引っ張りだして、彼女に渡した。
「とりあえず、今日はこれで我慢してくれ」
「あ、ありがとうございます」
「風呂、沸いてるから。入ってこい」
「は、はい」
風呂に消えていく彼女を居間で見送る。
先に寝るわけにもいかず、とりあえずテレビの電源をいれたものの、どのチャンネルを回しても大して興味をひくような番組はなかった。
ザッピングしながら時間を過ごし、そのうちにさんが風呂から上がってきた。
「お風呂、ありがとうございました」
「おう……」
声に振り返ると、ほんのり頬を上気させたさんが立っていた。
俺の貸した服はブカブカで、まるでサイズが合っちゃいない。
油断するとするりと肩がはだけるようで、そのたびにさんは恥ずかしそうにTシャツの襟を押さえる。
「…だいぶ、大きいみたいだな」
「はい……」
母ちゃんの寝間着でも貸せばよかっただろうか。
目のやり場に困ってしまう。
そんな気はないのに、ドギマギしてしまうのは男の性だ。
「あー…うち客間ねぇから、俺の部屋で寝てくれるか。散らかってっけど、ちゃんと掃除機はかけてあるから」
「……繋心さんは?」
「俺はここで寝るわ」