第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
笑顔の女とは裏腹に、困惑の表情を浮かべる俺に、女は小さく首をかしげた。
「あれ? 聞いていませんか? 私、といいます。繋心さんの、お見合い相手として来ました」
彼女の言葉から三拍くらいの間をおいて、自分でも驚くほどの素っ頓狂な声が口から飛び出てきた。
「はぁぁ?! 見合いぃ?!? 何だ、ソレ。聞いてねぇし」
見合い。
確かに最近、あちこちのおばちゃん達から持ち掛けられてはいたが。
どれも丁重にお断りしているはずだ。
見合い相手として持ってこられた写真を、きちんと目を通したことがないから、もしかしたら今まで誰かが持ってきた写真の中に、この人がいたのかもしれない。
しかし……見合い相手というには、ちぃっと若くねぇか。
どう見ても10代後半~20代前半といった感じがする。
見た目もすんごいブサイクといったわけでもなく、いたって普通の女だ。
なんだ。
この若さで、この見た目で見合いって。
何か裏がある。
そうとしか思えない。
なんだ。
ハニートラップか。美人局か。
「俺をひっかけても、金なんて持ってねぇぞ」
「え?」
「アンタ、何か企んでるんだろ。でなきゃなんで俺と見合いなんか」
「企んでなんかいません。私はただ、繋心さんと結婚したい一心で来たんです」
「それがおかしいってんだよ。アンタ、初対面だろ。俺のこと何も知らねぇだろ。なのに来ていきなり結婚だなんだって」
俺の困惑をよそに、そうですかね、と答えるさんに頭が痛くなり始めていた。
ドッキリか。
町内会で何か仕組んでるのか。
母ちゃんが表掃除しろっつったのも、こいつと出会わせる為だったのか。
頭の中では、そんなトンデモ理論が旋回し始める。
「確かに私と繋心さんは初対面ですけど。お見合いって、そういうものじゃないですか?」
「それは、まぁ、そうだけどよ。…悪いけど、俺は結婚する気ねぇから」
「お付き合いされている方はいらっしゃらない、と伺っていますが?」
「う゛……いねぇよ。彼女とかはいねぇけどよ! 今はまだ結婚とか考えられねぇし。付き合うとか、そういうのも、別に」
自分で言ってて、しんどくなった。
彼女なんて、もう何年いないことか。
大体、ここの店番してるだけだと出会いなんかないし。
出会える若い女といえば、烏野高校の生徒くらい。