第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
メッセージの続きでもあるのかと、しばらく2人してスマホを見ていたけれど、一向に続きが送られてくる気配は無かった。
「やっぱり送り間違いかな?」
「かもしれないですね」
スマホをポケットにしまいこんで、再び歩き出す。
「せっかく部に顔出してくれたのに、買い出しに付き合わせてしまってすみみません」
マネージャーの滑津が申し訳なさそうに頭を下げる。
俺はそれに首を振って答えた。
「いや、いいよ。鎌ちと笹やんがいるし、あっちは大丈夫だろ。…むしろごめんな」
「え? 何がですか?」
「いやさ、俺ら引退してるってのにしょっちゅう顔出してただろ? もういい加減うざいんじゃないかって」
「そんなことないですよ」
だって、と言いかけた滑津は、ほんのちょっと考えてから、また言葉を続けた。
「…だって、なんだかんだ言ってみんな待ってるんですよ、先輩達のこと。特に、二口とか二口とか。口じゃあ『また来たんスかぁ?暇すぎでしょセンパイ』とか言ってますけど」
滑津の二口の口真似が妙に似ていて、思わず噴き出してしまった。
自分が主将だった頃、一番手を焼いた後輩なだけに、滑津の言葉がたとえお世辞だったとしても、嬉しかった。
「二口が? ……そうかぁ」
「寂しい、ですね。もうすぐ卒業なんですもんね……」
寂しい。
滑津の声音もあってか、俺の中の感情も、どこかセンチメンタルなものになってしまう。
「そうだなぁ……まだ実感ないけど、卒業するんだよなぁ……」
そう呟いた自分の声音も寂しさを帯びていた。
吐き出した白い息も、どこかわびしく見える。
感傷に浸っていた俺達の空気を、突然破るものがあった。
「茂庭くん!!!」
背後から大声で名前を呼ばれた。
どこか聞いたことがある声に振り返ると、真っ白なコートに身を包んだ女の子が横断歩道の向こうから、ブンブンと手を振っている。
一瞬誰かな、と頭の中で思い当たる人物を探してしまった。
先ほどの声と照らし合わせれば、それは同じクラスのさんだという結論に行きついた。
いつも制服か作業着姿ばかりだったから、私服だと雰囲気がまるで違って、一瞬誰だか分からなった。
寒いのに白いコートの下からのぞく肌色の脚に、風邪をひかないか心配になった。