第12章 星を見る少年/岩泉一
「えっ、ちゃんそんな事があったの?! 転んだ話は聞いたけど、落ちそうになったって?」
「あー……そうなんです。ぼうっとしててホームから落っこちそうになったところを、はじめ君に助けてもらって」
「まぁそうだったの! ちゃん気をつけなくちゃ…転落しなくて本当に良かったわ。はじめちゃん、やるじゃないちゃん助けるなんて。さすがね」
初枝さんの真っ直ぐな褒め言葉に、はじめ君の耳が真っ赤になっていった。
このくらいの年の頃って、褒められると照れくさく感じたっけ。
年相応のはじめ君の反応がほほえましく思える。
「はじめ君、あの時は助けてくれてありがとう。あの場できちんとお礼言えなくてごめんなさい」
いつかまた会ったらちゃんとお礼を言おうと思っていた。
まさかこんな形で再会するとは思ってもみなかったけれど。
初枝さんに褒められたあとにお礼を言われたからか、はじめ君の耳はさらに赤くなった。
後頭部を掻きながら、「別に礼なんて」とはじめ君は言った。
「あ、それとあのハンカチ」
「あぁ……別にいいっすよ。返さなくても」
「でもあれ高そうなハンカチだったし。今持っては来てるんだけど、ロッカーの中で」
「…じゃあまた今度会った時にもらいます。俺見舞いちょくちょく来るつもりだし。また駅で会うかもしれねぇし」
同じ路線の電車に乗っているのだから、はじめ君の言うとおりまた駅で会うかもしれない。
確実では無かったけれど、病院で会うことも含めれば近いうちにハンカチは返せるだろう。
どうしてもタイミングが合わなければ、初枝さんに預かってもらうのもありかもしれない。
そんなことを考えて、私は頷いた。
「じゃあはじめ君、またね」
「うっす」
目線を合わせたまま、軽く会釈するはじめ君にお辞儀をして、次の患者さんの元へと向かう。
仕切りのカーテン越しに聞こえる初枝さんとはじめ君の会話は、時折初枝さんの笑い声が聞こえてとても楽しそうだった。
初枝さんが自慢したくなるのも分かる。
実直そうで人に自然と親切に出来るいい子だから。
その日、はじめ君は帰りがけにわざわざ挨拶までしてくれて、ますます私の中で彼への評価は高まったのだった。