第10章 これからの話をしよう/天童覚
黒板に、白い線が引かれていく。
流れるように描かれていくその白線を、ただなんとなく眺めていた。
私の心中とは正反対に、教室は賑やかだった。
隣の席の女の子は、後ろの席の子と「離れたくないよぉ」なんて手を握り合っている。
どこへ移動することになったって、同じ教室の中だ。
隣近所が誰になったって、何が変わるわけでもない。
ただ、一番真ん中で最前列の、教卓の前だけはちょっと嫌だなぁ、と思う。
静かに過ごせそうな窓際の後方の席だったら嬉しいけれど。
そう思ったところで大抵、願いはかなわないことは、よく分かっている。
「じゃあ廊下側のやつからくじ引いていってー」
教師の声に、みんなぞろぞろと列をなして教卓へと向かい始めた。
小さな紙片に書かれた数字と、黒板に書かれた数字を確認して、クラスメイト達は一喜一憂している。
そんなクラスメイト達を尻目に、教卓の上の空き箱に手を入れた。
気休め程度に紙片を軽く混ぜて、掴む。
後ろから早く変わって欲しいというオーラを感じて、少し移動してからくじの中身を確認することにした。
…残念。望みの窓際の席ではなかった。
反対の廊下側に近い席だ。
黒板に書かれたマス目の中に、くじの番号と照らし合わせて自分の名前を書き入れる。
その時になって初めて、自分の隣の席にすでに名前が書かれていることに気が付いた。
『天童』
…天童。確か、逆立った髪の…少しひょうきんな感じの男子だ。
ほとんど話したことがないけれど、授業中でも時折おかしな発言をしてみんなを笑わせたりしてるから、ムードメーカーみたいな存在…なんだと思う。
まぁ隣が誰だって。
特に何があるわけでもなし。
そうこうしているうちに、全員くじを引き終わって、席の移動が始まった。
廊下の窓際は天童君の席だから、その隣に自分の机がくるように天童君のスペースを空けておく。
「ごっめーん」
ガタガタと賑やかに机を鳴らしながら、天童君がやってきた。
前後の男子に小突かれながら、天童君は笑って机をセッティングする。
彼の机の位置が定まったところで、私も自分の机の位置を微調整させた。
ようやく落ち着けた。ホッとしたのも束の間、俯いていた私の顔を天童君が下から覗き込んできて、思わずぎょっとして小さな悲鳴をあげてしまった。
「今日からよろしくね~…えーっと」