第9章 まっすぐ!/黄金川貫至
のアパートが近づくにつれて、街灯の数が減っていく。
防犯上あまりよろしくない環境だったが、そのせいもあってか家賃が安いのだとは話していた。
塗装がはげて錆が見えている階段を上がって、の部屋の前まで来ると、が不思議そうな顔になった。
「どしたんすか」
「ん、なんだろうこれ」
言ってはドアノブにかけられたビニール袋に手をかけた。
中をちらりと覗きこんだ彼女は、ビニール袋の中のものと目が合うと小さく悲鳴をあげて黄金川にしがみついた。
「えっ、どうした……」
急なことに理解が追いつかないでいる黄金川だったが、が手をかけた後、床に赤黒い液体を撒き散らして落ちていったビニール袋に目が釘付けになった。
じわりじわりと広がっていく赤黒い液体に混じって、ところどころ内臓のようなものが見える。
そして袋からゴロリと姿を現したのは、子猫と思わしき頭部だった。
異様な光景に黄金川も目を見開いたまま固まってしまう。
ややあって、しがみついて震えているに気づいて、黄金川はそっと彼女を抱きしめた。
大丈夫だと励ますように、肩を優しく叩く。
「…け、警察。警察よびましょう」
「……う、うん…」
震えるをなんとか落ち着かせ、黄金川は警察に連絡した。
ほどなくして現れた警官に、事情を説明するも、今の時点では見回りを強化するくらいしか出来ないと言われてしまった。
「でも、こんな嫌がらせしてくるヤツなんて、異常ですよ! いつさん自身が襲われるか」
「気持ちはよく分かるんだけどね。これをここに犯人が置いたっていう決定的な証拠が無いとこっちも動けないんだ。ここらには防犯カメラもないし…犯行の瞬間を目撃した人もいなさそうだし…現状、巡回を増やすくらいしか出来ないね」
「そんな……」
黄金川の横で話を聞いていたも、警官の言葉に絶望している。
気味の悪い嫌がらせを受けたというのに、すぐに犯人を捜してもらえるわけじゃない。
こんな残酷なことを平気でするような人間が、次にどんなことをしでかすか分かったものではない。
「今日の所は出来れば1人にならないよう、誰かと一緒にいて下さい。それと戸締まりはしっかりして下さいね。何かあればすぐ連絡して下さい」