第9章 まっすぐ!/黄金川貫至
『貫至くん
今日は家まで送ってくれてありがとう
たくさんお話も出来て楽しかったです
雨で濡れてなかった?気をつかわせてごめんね
風邪引かないよう気をつけてね
ライブ→来週土曜/18:00スタート予定
場所は駅前広場!
良かったら聞きに来てね』
「来週土曜か…」
その日はちょうど練習試合がある日だ。
学校から駅までどう頑張っても20分はかかる。
試合時間によっては間に合うか微妙なところだ。
「ぜってー行く!」
どんな手を使ってでも、来週土曜は歌を聴きに行こう。
黄金川は固く決意をし、そのままの勢いでに返信をした。
するとすぐにまたからメッセージが届いた。
可愛らしい猫のイラストがハートマークを抱いていて、その中には『ありがとう』の文字が書かれていた。
今まさにと携帯越しに会話しているのだと思うと、黄金川は嬉しくて仕方がなかった。
黄金川がの事を考えているように、彼女もまた自分のことを考えている。
その事実だけで、黄金川は天にも昇るような気持ちだった。
あまりに浮かれていたので、黄金川はここが風呂場だということを忘れていたらしい。
勢いよくとったガッツポーズのせいで、右手から携帯が滑り落ちていった。
ちゃぷん、といい音をたてて携帯は猫のイラストを表示させたまま湯船の中に沈んでいった。
「うわあぁっ!!」
いくら叫んでみてももう遅かった。
黄金川の携帯は、湯船から救出した時にはすでに壊れてしまっていた。
まさに急転直下。
黄金川の幸運な一日はなんとも悲しい終わりを迎えた。
******
土曜日。
黄金川の頭の中はのライブのことでいっぱいだった。
午前中の授業はほぼ上の空だったし、部活中の今もそわそわと落ち着かない様子で何度も時計を気にしていた。
いくら時間を気にしても試合終了が早まるわけもなく、黄金川はその落ち着きのなさを幾度となく注意された。
ようやく試合が終わり、片付けを始める時には黄金川はいち早く動き出していた。
いつもにまして身軽な動きを見せる黄金川に、伊達工メンバーは不思議そうな顔で彼を見ていた。
「どした黄金。今日はそんなに早く帰りたいのか?」
「歌聴きに行くんです! さんの!」
「歌? さん?」