第15章 初心者夫婦、初心者親子。
その答えに驚いていたのはサクモだった。八、二で彼女は頷くと思っていたから。
「私は、後悔していませんから」
「それは嘘だよ、身体が証明しているからね」
俯き、指を撫でていた。
その仕草を見下ろしながら、サクモはの言葉を待たず続けた。
「ダンゾウ様にも打診されたろう」
彼女は頷き、深く息を吐いた。
迷うように口を開き顔を上げる。真っ直ぐ見つめる金色の瞳は迷いは無かった。
「確かに、名目をつけられ行けと言われました。けれど、私は、断りました。」
サクモは口が開き、固まる。
断った?濁した理由でもなく?ダンゾウの言葉を断った?
信じられなかった。
にんまりと微笑んだ。
「サクモさん。私は旦那様をちゃんと愛しています。旦那様の事をちゃんと怒っていますし、旦那様に付けられた傷もちゃんと心にあります。けれど、私は自分からも旦那様からも逃げません」
表情を歪めたのはサクモだった。
「決めたのですよ、戦うと。心がまだ、それについて行かないだけです。大丈夫、こんな病室に隔離しなくても私は死を選びません」
「⋯⋯」
「強く、なりましょう。サクモさん、貴方の孫から逃げないでちゃんと愛してください、抱き上げて沢山愛してください」
「⋯⋯」
「今は、今だけは、悲しませて下さいね、けれど、逃げることはしません。もし、もしも、私が逃げたくなったら一番に貴方の傍に行きます、いぇ、きっと、あなたの側でまた泣き喚くでしょう」
えへへと微笑むは、今にも消えそうなぐらい儚く、美しく、強かった。