第9章 【甘】及川徹の策略/岩泉一
「岩泉こそさ、及川の彼女みたいに可愛らしい子が彼女だったらとか思わないの?」
「なんで及川の彼女がでてくんだよ。」
「だって、及川の彼女、めっちゃ可愛いし、女の子らしいし、男の子の理想を詰め込んだような子じゃん。」
及川の彼女と自分を比べれば、自分が女であるのが恥ずかしいと思える位。
「俺は逢崎の方が可愛いと思ってる。」
「へ?何て?」
「…二回も言わせんな。」
頬を赤く染め、目線を逸らす岩泉。つられて私も赤くなった。
「浴衣、スゲー似合ってる。」
「…あ、りがとう。岩泉も凄く似合ってる。カッコいい。」
「…おう。」
こういった雰囲気に、未だに慣れず、こういう時は何を言ったらいいのか分からず沈黙が流れる。
「…ホントは浴衣着るつもりじゃなかったんだけどよ、及川が。」
「及川が?」
「逢崎が浴衣着てる男ってカッコよく見えるとか何とか言ってたって聞いたから。」
言った覚えの無い言葉に疑問符を浮かべる。
「浴衣が好きなのは岩泉でしょ?」
「は?」
その言葉に岩泉も訳が分からないって顔をした。それを見てハッとした。岩泉もそれに気付いたようでクソ川が、と呟いた。
「こんな時まで及川の手のひらで転がされるなんて癪なんだけど。」
「同感だ。」
多分及川なりの気遣いだったんだろうけど、及川にいいように転がされてたのかと思うと、どうも癪に障る。きっとさっき会った時、私と岩泉が浴衣を着て夏祭りに来ていた事を心の中で笑ってたに違いない。まあ、そのお陰で、岩泉の浴衣姿を見られたから、それは良かったけどさ。
星の光が瞬く夜空。静寂を打ち消すように、花火が上がった。
「綺麗…。」
夜空に浮かぶ花火を岩泉と共に見上げた。不意に手を握られ、岩泉の方を見た。
「まあ、たまにはこういうのも悪くねえな。また、来年もここで花火見ような。」
「うん。」
繋いだ手をお互いに強く握り直した。
fin.