第8章 【甘】幼馴染みのその先/轟焦凍
「なんかスッキリしたって顔してる。」
母さんに会いに行った病院の帰り、俺の家の前で立っていた遥香は俺の顔を見るなり、そう言って笑った。
逢崎遥香。学科は違うが同じ学校で、家が近所。その為、小中学校も一緒だった。世間一般ではそういうのを幼馴染みと呼ぶのだろうが、幼少期、ほぼ軟禁状態に近かった為、幼馴染みと呼ぶには少しばかり違和感を覚えるが、幼い頃に家の者以外で時間を共にした事があるのは遥香ただ一人だった。昔、家から俺を連れ出した事で親父に怒鳴られる遥香を何度となく見てきた。ただ泣くだけの俺に対し、幼かったコイツは、泣きながら親父に突っかかっていった。親父に反論する身近な人間が近くにいたお陰で、俺は今日まで親父に対する反逆心を心の奥底に沈めながら生活出来ていたような気さえもしてる。幼かった俺は、唯一手を差し伸べてくれる遥香にヒーローに対する憧れに近しい物を抱いていた。それが恋心に変わるのもそう長くは掛からなかった。
「冬美ちゃんから聞いたよ。お母さんに会いに行ったんだって?エンデヴァーに何も言われなかった?」
「…アイツは関係ねえだろ。」
「って事は、エンデヴァー、何も言わなかったんだ。焦凍とオバサンが会うのになんかいちゃもんつけたんじゃないかと思ってさ。もしそうだったらエンデヴァーぶん殴ってやろうと思ってたのに。」
「それの尻拭いをすんのはオジサンなんだからいい加減アイツに突っかかるのやめろよ。」
遥香の親父はプロヒーローで、エンデヴァーヒーロー事務所との相棒(サイドキック)契約を交わしている。つまるところ、親父の部下という事だ。血の気の多い遥香が親父に啖呵切る度に頭を下げにくるオジサンを見てきた。それを見慣れてしまったと言えば、そうなのだが、遥香が親父に文句を付けるのは決まって俺と親父に何かあった時。つまりは、俺の為を思って行動しているワケだが、その度に頭を下げにくるオジサンを不憫に思わずにはいられなかった。