第4章 【甘】胃袋鷲掴み大作戦/花巻貴大
幼馴染みであり、お兄ちゃんのような存在である貴くんこと、花巻貴大くん。実のお兄ちゃんの百倍カッコよくて、冗談も言えて、三歳年下である私の事を実の妹のように可愛がってくれていた。
そんな私は恋だとか愛だとかそんなのに興味を持ち始める中学生。貴くんへの好きの気持ちが特別になるのはごく自然の流れだった。というか、自分の気持ちに気付くのが少しばかり遅かったかもしれない。だって、貴くんが高校でモテモテなん知らなかった。恋愛に興味が出る前は、そんな事どうでもいい情報であって、別に知らなくていい事実だったから。
貴くんとの距離を幼馴染み兼妹という物から恋愛対象という物に塗り替える為、二月のお小遣いを全てチョコレートの材料へと変えた。甘い物が大好きな貴くんの心をバレンタインに手作りチョコレートで鷲掴みにしてやろうという作戦だ。携帯で調べたチョコレートの作り方を画面に表示させ、睨めっこしながら調理開始。いざ、作り始めてみると、簡単なんて書いてあるけど、全然上手くいかなくて、既に作り始めた事を後悔していた。キッチンはチョコレートの甘い匂いに包まれて、匂いだけなら美味しそうだけど、出来上がったトリュフは食べた人の歯をへし折ってやる!と言わんばかりの攻撃的な物体へと変貌した。見た目も綺麗な球体ではなく、歪な形で、それを隠そうと奮闘したが、かえって強度が増しただけだった。こんな事なら、既製品を買うべきだったと後悔したが、時すでに遅し。お小遣いは底を尽きた。私の手元に残ったのは甘い香りのする歪な黒い物体と板チョコ一枚。私自身甘い物は好物だし、自分で食べてしまおうかと思ったけど、あまりの硬さに自分で食べる事を諦めた。食べ切る前に私の歯がダメになってしまう。こんな物を貴くんにあげたりなんかしたら、好感度アップどころか、好感度大暴落だ。これはお兄ちゃんとお父さんにあげよう。可愛い妹、娘の作った物なら泣いて喜んで食べてくれるであろう。貴くんには安全が保証された板チョコでいいや。背に腹は代えられない。そう思って、板チョコをバレンタインっぽく可愛いハートの包み紙で包装した。あんまり細々とした事が得意で無い為、凝った事は出来ないが、板チョコをそのまま渡すよりはマシだと思いたい。